松本ハウス『統合失調症がやってきた』を読んだ!

松本ハウス『統合失調症がやってきた』(イースト・プレス)を読んだ。

統合失調症がやってきた (幻冬舎文庫) [ 松本ハウス ]

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お笑い番組「ボキャブラ天国」(1992~1999)で大活躍したお笑いコンビ、松本ハウス。
その片割れハウス加賀谷は中学生のころから統合失調症を患っていた。
一時は病状悪化しコンビ解散、保護室での療養も経た加賀谷が、約10年掛けてコンビを復活させるまでの半生を描いた一冊。

【あらすじ】
中学生のころから「かがちん、くさい」という幻聴が聞こえだし、精神科医療にかかる。高校生のときはグループホームで穏やかに生活していた。
17歳で上京してお笑いの世界に飛び込み、松本キックに出会う。
コンビで活躍していくうちにボキャブラ天国の出演依頼が舞い込み、売れっ子芸人として名を馳せるが、CMやイベント、営業活動など多忙を極めた加賀谷の病状は悪化していく。
悪化の大きな原因は、以下の二つだという。
一つ目は怠薬したこと。病気のことを知った友人に「薬なんて飲まなくても大丈夫」「薬なんて早く止めれるようにね」という風に言われ、加賀谷自身も「飲まなくてもやっていけるんだ」と自分で飲む量を減らしてしまった。そして病状が悪化したら不安になって多量の薬を一気に飲む。そんなことを繰り返してしまった。
もう一つは、負のエネルギーで生きていたこと。自分のことが大嫌いだった加賀谷は、お笑い芸人として認められようと努力する。ざまあみろ、グループホームに入っていた人間だけど、こうやって芸人として売れっ子になっているぞ、見返してやった的な。そして、努力が認められ周囲から評価されればされるほど、自己否定は強くなる。自己評価と他人の評価の差があまりにも大きく、その矛盾に耐えきれなかった。
友人の「そんなね、鬱々とした気持ちなんて日当たりのいい部屋で過ごせば治るよ」という言葉を受けて、南に大きな窓のある4階の部屋に引っ越した。それが地獄の始まりだった。
それから加賀谷は、南の窓の外に相方のキックや親友であるモンチの幻覚を見るようになる。キックさんを心配させてはいけない、こんな姿を見せてはいけないとカーテンを閉めて部屋の隅に隠れる日々。
そのうちに窓からスナイパーに狙われていると思うようになり、部屋の中を這いつくばりながら恐怖の中で生活することになる。
何度か自殺未遂もしたが、芸人の仕事は無理をして続けていた。
ある日の夜、相方のキックからFAXが届く。そこには手書きの文字が並んでいた。
「簡単なことはするな それはつまらないから 俺もそれはしない」
そのFAXで加賀谷は自殺することをやめた。
限界を迎えた加賀谷は2000年の1月13日に保護室に入院。のちに10年以上の付き合いになる医師Oに出会う。
また、入院後きっかり7か月で退院した後も無気力感が強く5年ものあいだ引きこもる。しかし保健所のデイケアで知り合った患者仲間との雑談で知った新しい薬エビリファイが体に合ったことで一気に回復。
外に向かっていく意欲を得た加賀谷はアルバイトを始める。アルバイトの面接は「ハウス加賀谷枠」で突破した。
アルバイト生活が3年ほど続いたころ、加賀谷は思い切ってキックにコンビ再開を打診する。
そして2009年、松本ハウスは再び舞台に立った。

【感想】
これを読んだ時の私の感想は「よく復活できたな」だった。
病気を悪くする要因はたくさんあったけど、それ以上に良い要素もたくさんありすぎて、そちらが勝ったのかもしれないと思った。特に身近な人間関係に恵まれている。
また、運の要素も大きいと思う。
もし医師Oに出会っていなかったら?
もし医師Oが「こんなに病状が重いのではいけない」と加賀谷を何年も退院させなかったら?
逆に外泊も落ち着いてできないうちから早すぎる退院をさせてしまっていたら?
もし入院中も会いに来てくれる親友や彼女がいなかったら?
もし新薬エビリファイに出会っていなかったら?
もし家族や医師が「無理しないでゆっくり休みなさい」とバイトに不賛成であったら?
もしアルバイト先でまったくかわいがってもらえず、精神を不調にするような人間に出会っていたら?
そして、もし松本ハウスとしてもう一度お笑いをやるんだという強い目標がなかったら。

焦って頑張ろうとしすぎても自滅してしまう。かといって手をこまねくばかりでは機を逸してしまい慢性化への道を辿ってしまう。
エビリファイを飲み始める前から医師Oがアルバイトを勧めていたというのも、よくよく考えた上でのことだろう。
病気からの回復には、賢さも必要なのだと思った。

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